ルウは重たいまぶたをゆっくり開けた。
辺りは何もなく、光もなく、暗い。

そこは”無”だった。




「ここは…」
闇から逃れようと、ルウは必死にもがいていた。
しかし、辺りはまったく姿を変えることなく、
沈黙を守っている。
自分の声が聞こえるのが、不思議なくらいだった。
「私…」
冷静さを取り戻し、辺りを見渡す。
自分が今、どこにいるのか、
自分は今、どこに立っているのか。
何の答えも見つからなかった。
「…!」
ルウはその暗闇の先に”自分”を見つけた。
何も言わず、動かずに、
『自分』を見つめる”自分”は、
先ほど学校を壊した、少女だった。
「あなたは…」
少女に呼びかけるが
少女は何も答えず、ただ、
ルウを見つめていた。
「…」
長い沈黙の間、ルウは”少女”を眺めていた。
髪の長さ、目元、顔つき、体格、
全てにおいてルウにそっくりだった。
その少女が、これから自分に何を話すのか、
気になってしょうがなかった。

「お前…」
「!」

少女が口を開いた。
「お前…お前が”笛を持っているのか」
「?」
少女の放った言葉に、ルウは目を丸くした。
「笛?」
「お前が持っている”笛”だ」
まったく理解ができない。
ルウは、そう言う様に首を傾げた。
少女が眉を寄せる。
そしてもう一度「笛」と言うと、
目の前にいるルウを指差した。
「私?」
「お前は己が求める”虹色の笛”を持っている。
それを渡せ」
「な、ちょっと待ってよ!」
”私、そんなの知らないよ!”
そう言おうとするルウの制服のポケットが、
もぞもぞと動き出した。
「!?何これ!」
「そこにあったか、笛よ」
”出せ”と言われ大人しくポケットを探る。
そこには、あるはずのない物が入っていた。
「…”笛”…?」
ポケットから取り出すと、
それはまさしく”笛”だった。
オカリナのような、それでももっと美しい、
鮮やかな笛。
「渡せ」
そう言って少女は手を差し出す。
ルウは無意識に、笛を持った手を引いた。
「…渡さない、と…?」
「…あ、れ」
自分の手を見る。
普通の手。
自分の手のはずなのに、とても怖くなった。
「その笛はお前には扱えない。早く己に渡せ」
「……い、嫌だ…」
何故だかはわからない。でも、渡せなかった。
「…そうか」
少女は静かに呟くと、
表情もなくルウに歩み寄った。
ルウが一歩下がる。
「ここではなんだ。
お前を別の空間に飛ばしてから、もらうとしよう」
「え」
別の空間?
ルウは目を見開いた。
空間を、飛ぶ?
「…い、嫌だ」
少女がゆっくりと歩み寄る。
またルウが一歩下がった。
少女が眉を寄せた。
「そう動いて逃げられては困るんだがな」
そう言うと、少女は片腕を前に出す。
そして言葉か呪文かわからないものを発した。
「…い、やだぁっ!」
ルウが、その空間にいたときの最後の言葉。
それは、辺りの暗闇に吸い込まれ、

―――――消えた。


――――――――――――――
その笛は、全てを無に反す。